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どんなに目をこらしても、終わりが見つけられないほど果てしなく続く乾いた土の上、はだしで力強く立って大きく両手を広げる。「もうダメ!」ってくらいに思いっきり空気を吸い込んだ瞬間、幼いころの思い出、温かい手、大好きな友達の笑い声…そんな大切な記憶が浮かぶ。 私にとって、十勝は現在の私を創り出した大きな大きな世界。ある意味、お母さんのおなかの中のような存在です。 3歳のころ、友達のクラシックバレエの発表会に連れて行ってもらった時のこと。きらびやかなステージに一瞬で引き込まれ、誕生日プレゼントとして、帯広のアンジュバレエスタジオでクラシックバレエを習わせてもらいました。 約15年間のバレエ生活で最も心に残っているのは、中学2年生の時、念願だった札幌でのバレエコンクールで一番の見せ場でミスをしてしまったことです。長い間、その一瞬のためだけにレッスンを重ね、たくさんの方々の期待に応えられなかった私は、とっさにシューズのせいにしたり、言い訳ばかりを並べてしまいました。 そんな私に先生は「彩香は今、自分に負けたんだよ」と言いました。その言葉を聞いて、逃げ出したこと、投げ出したこと、認められなかったことに気が付きました。長い時間をかけて、自分と闘い抜く強さを教えてもらった気がします。 そんなバレエ一筋の私が、「うた」に興味を持ち始めたのが高校3年生の春。バレエのように、もともと在るものを自分らしく表現するというスタイルから、ゼロから自分を表現してみたいという気持ちに変わりました。詩も曲もゼロから作り、私が歌えば自分自身を表現できると思い、シンガー・ソングライターになることを決めました。 そこで、楽器も譜面も分からない私が通い始めたのが「アーティストあや」のホームグラウンドとなった、帯広の平井音楽事務所。ボーカルレッスンや音楽の基礎はもちろんですが、そこで一番学んだのは気持ちの大切さでした。 平井一郎先生は常に「どんな時でも感謝の気持ちを忘れちゃいけない」と生徒みんなに言っていました。上京して1人では何もできない環境になり、もっとその言葉の意味を知りました。人としての、当たり前ではあるが忘れがちな気持ちを教えてくださった平井先生は、私が最も感謝している1人です。 そして平井音楽事務所の発表会でウッドベースを弾いてくださり、知り合ったのが佐々木源市さん。源さんが経営するジャズバー「B♭M7」で昨年1月、念願だった地元帯広市でのアコースティックライブをやらせていただきました。東京でのライブと違って、家族や親戚、青春時代を過ごした大好きな友達の中で歌えたことがとても幸せでした。すてきなライブをさせてくれた源さんに感謝しています。また必ず歌いに帰りたいと思っています。
そして「十勝」と聞いて、一番に思い浮かぶのは、やはり両親の顔でしょう。小さいころから女の子の色を好まなかった私に「成人式くらいかわいいの着てほしいなぁ」と言いながら、買ってくれたピンクの着物を着た私を見た時の父のくしゃくしゃな笑顔。帯広でのライブ中、両親に向けて歌った時の母のうれしそうな泣き顔…。そんな両親の笑顔が浮かんできます。
私が東京に歌いに行くと言った時の父の寂しそうな顔、「つらい時はいつでも十勝に帰っておいで」と優しい言葉をくれた母の顔が、今も私を頑張らせてくれる大きな力です。
そんなふうに温かく、時には厳しく大きく私を育ててくれた十勝。心が弱くなった時、勇気をもらいにまた帰るでしょう。そんな大切な十勝を心の支えに、これからも私の「うた」を歌っていこうと思います。
<略歴>
本名・春木彩香。1985年、帯広市生まれ。帯広西小、帯広第二中を経て、2004年に芽室高卒業。06年「刹那(せつな)」でデビュー。自ら作詞や作曲なども行い、オリジナル曲は40を超える。2月にはマキシシングル「空、ずっと」を発売した。好きなアーティストはブルース・スプリングスティーン、イモージェン・ヒープ、ビョーク。また、クラシックバレエ歴15年の経験などを生かし、女優として映画や舞台でも活躍する。趣味は小説の執筆や絵画創作など。東京都在住、25歳。
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