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言葉ファイル

「言葉ファイル」は、十勝地方で行われた著名人や注目される人の講演内容を詳しく紹介するコーナーです。

池澤夏樹さん*作家 2010/09/14
(児童詩誌「サイロ」創刊50周年記念講演会「暮らしの中の言葉」から=11日、帯広市民文化ホール)
池澤夏樹さん*作家

*言葉を上手に使えば、後々まで残る。それが詩。

 言葉は毎日使っていて、誰でも知っていて日本語であれば大丈夫と思っているけれど、意外とそうでもない。言葉を賢く、上手に使うということをお話しできれば。  
 昔から、作文で言われてきたのは「思った通りに書く」。これは間違いです。締まりがなくて、いい作文にはならない。もう少し工夫がいる。  
 一番いいのは言葉を少し減らしてみるんですね。どの言葉がいらないか、繰り返しはないかと引き締め、その上でちょっと凝った言い回しを使ってみる。そのためには備蓄がないといけないので、いい文章を読む。読むのはとても大事です。  
 好きな文章に出会ったら原稿用紙を買ってきて、自分の手で写してみる。だんだん自分がお手本とする文章のこつが分かってくる。それを自分の文章に応用する。そういうことを繰り返して、自分の文章術を磨くんだと思うのです。  
 ワープロが普及したころ、日本語が変わるんじゃないかと言われました。その傾向はありました。小説について言えば、漢字が増えた。手で書けない漢字でも変換で出てくるから、どんどん使う。また全体に長くなった。書くのがある種楽になったからとめどがない。  
 しかし、読んでいておかしいんです。僕の体験で言うと、ワープロで書いたら1回プリントし、赤鉛筆で手を入れる。余計な部分を取って、手書きの修正部分を見ながら、ワープロで直す。必ずそうしていました。  
 言葉はある意味、すごく長生きです。基本的には千年前のものも読める。今昔物語くらいだったら、そんなに苦労しないですみます。そのくらい変わらずに次の代に伝えてきた、ゆるぎない文化的な道具です。  
 その一方で、自分の気持ちを伝える道具であるから、インパクトのある言い方をしないといけない。今だと若い人たちが、2文字でちょっと尻上がりで強調しますね。「キモっ」とか。「新しい言い方を使っているぼくたちは若いんだ」という気持ちで新しい表現に飛びつく。だから言葉は変わっていきます。  
 一方で、日本語の本来の姿も伝えていかないといけない。両方があって言葉は進んでいく。明らかに生き物ですから、箱に入れて固めてしまってはいけない。ああだ、こうだと言いながら、少しずつ変わっていく。それが日常の言葉です。  
 もう一つレベルを引き上げて、言葉を上手に使って、言いたいことを言う。それが後々まで残るのが、詩ではないかと思います。なぜ残るかというと、みんながその思いを共有できるからです。  
 詩の一つの機能ですが、読んだ人がある状況で「あの詩に書いてあったのはこういうことだったのか」と気付く。自分の気持ちを表現する道具として、他の人の詩を持ってきて読むことができる。  
 一番いいのが、恋しているときですね。特定の人のことが気になってしょうがない。心がざわざわとして落ち着かない。自分で表現できればいいんだけど、そうでなければ、だれかが書いた恋の詩を持ってきて読んでみる。すごく自分の気持ちが分かる。それが良くできた詩の機能であり、そのために人が詩を書いてきたんだと思います。

〈略歴〉

 いけざわ・なつき 1945年、帯広市生まれ。埼玉大学理工学部中退。1984年、短編小説「夏の朝の成層圏」で小説家デビュー。「スティル・ライフ」で、第98回芥川賞受賞。現在、北海道新聞朝刊などに「氷山の南」を連載中。札幌市在住。

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