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穴あきチーズの「エメレット」を持つ宮嶋望さん。「月の贈りもの」とも呼んでいる(守屋裕之撮影) |
新得町の農事組合法人共働学舎新得農場の宮嶋望代表(56)は昨年十月、ドイツの田舎町オーベルストドルフにいた。欧州のチーズ生産団体が主催する第五回山のチーズ五輪で、金銀のメダルを獲得した表彰式に臨んでいた。
金賞の「さくら」は二〇〇四年に続く再受賞で、十勝でもよく見かける製品だ。しかし、銀賞に輝いた「エメレット」の名は聞くことがない。
宮嶋さんに尋ねると笑顔になった。「実はオープンにしていません。たくさんはできないので、昨年春ごろから限られたレストランなどにお分けしています」
エメレットは初め、不良品と思われ捨てられていた。大きな穴はないラクレットチーズなのに、なぜか内部にぽこぽこと穴ができる。不思議に思っていた宮嶋さんはある時、気が付いた。穴があくのは周期的じゃないか?
調べると、製造日(発酵を始める日)が新月から新月後三日ぐらいのものに比較的よく穴ができる。しかもうまい。宮嶋さんは「ある種の微生物が活性化してガ スを出し、穴があく。新月直後は月が(太陽と同じ方向にあり見えない状態の)陰から、陽に向かい始める時。太陽から地球に届くエネルギーが増幅されるので しょう」と考える。
地球は他の天体から大きな影響を受ける。その筆頭が太陽で、二番目が月だ。月の力を私たちは潮の満ち引きで知る。
太陽や月などから届くエネルギーや力と連動した農業を探る勉強会が、二月中旬、芽室町の農産物卸売業アグリシステム(伊藤英信社長)で開かれた。管内の農 業者ら約二十人が教材としたのが、オーストリア出身の哲学者ルドルフ・シュタイナー(一八六一−一九二五年)の提唱した「バイオダイナミック農法」だ。
講師を務めた岩見沢市の農業半浦剛さん(52)は、「農場の動植物が自然のリズムと同調していれば天体から力をもらいやすい」と話す。
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| 共働学舎新得農場の堆肥舎と新月間近の月。堆肥舎は新月伐採の木で建てた(鈴木英乙撮影) |
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家畜を飼い、堆肥(たいひ)を自給し、果樹や低木を植え、菌類が豊富に生える湿地を造る。このような方法で調和が生まれた農場では、多くの動植物が自然のリズムと同調するという。必要な物資は自前で調達できる。そんな自己完結型農場をシュタイナーは理想とした。
「大切なのは農場内に外から物資を持ち込まないこと。シュタイナーの考え方では、健康な農場は何も持ち込む必要がないのです」(半浦さん)。伊藤社長は今年、関係する農業法人の農地約二十ヘクタールで大豆、小麦、ゴボウなどを同農法で試験栽培するという。
*冬の新月直前に伐採した木*かびず虫付きにくく
月への関心は今、農業よりも林業関係者の間で高まっている。
きっかけは一九九六年、ドイツ語で出版された一冊の本だ。二〇〇三年、日本語に翻訳されたその本のタイトルは「木とつきあう智恵」。
著者でオーストリアの製材業者エルヴィン・トーマさんはこの年、帯広を訪ねて講演した。「木材を伐採する時期は冬。下弦の月から新月にかけての時期がいい。さらに、枝を落とさず自然に乾燥させれば燃えにくく虫も付きにくい」。要約すればトーマさんの話はこうなる。
自然や福祉などの出版社、地湧社(東京)の増田正雄社長(72)は、この説に驚き、その後、本の翻訳出版を手がけることになる。
増田さんはまず、国内の古い文献に当たったり、林業や建築関係者約三百人に尋ねてみたが、分かる人がいなかった。「自分で確かめるしかない」と〇一年暮れ、新月直前と満月の日にそれぞれ箱根山麓(さんろく)でミズキの木を伐採して観察した。
「その時のミズキがこれです」。増田さんは証拠品を見せてくれた。「満月に切った板はかびが生じ、冬の新月直前に切り出した『新月伐採』の木の方はかびない。翌年の梅雨時、誤って両方の板を重ねて放置してしまったのですが、かびは移らなかった。そのぐらい違うんです」
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かびた板とかびていない板を見せる増田正雄さん。これを見る限り、新月伐採の効果は歴然としている) |
増田さんは〇四年にNPO法人「新月の木国際協会」を設立、理事長となって情報発信を続けている。「月の力が何かは分からない。しかし、現実に新月伐採の木は他の木と違う。トーマさんの母国オーストリアでは、新月伐採の木の認証制度までできています」
十勝でもぽつぽつ、新月伐採の木で家が建ち始めた。幕別町の工務店ホームテクト佐藤も昨年、同法人の認証に基づき、帯広市内に一軒の住宅を完成させた。
その家を家主に見せてもらった。同社の佐藤正幸社長は「まだ建って半年だから分からないが、木の狂いやひび割れが小さいように思います」
*終わりに
元道副知事の麻田信二酪農学園理事長を昨年末に訪ねた。
麻田さんは「人類はずっと食べ物を自然の恵みとして得てきた。ところが近年は食べ物を物質として作ってきた。そうしたことへの反省がなければ人類に未来はない」と話す。連載はここから取材を始めた。
同学園創設者の故黒沢酉蔵氏は著書「健土と健民」で、健康な土が健康な作物を育て、人間を健康にすると説いた。また「農民道」では、その土地、気候風土に合った農業を推奨している。このような視点で十勝の農業を考えるのも大切なことだと思う。 |