北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch




 当エッセー教室は、北海道新聞帯広支社が主催。現在帯広はじめ鹿追、大樹、芽室、上士幌の計5会場で開いており、合わせて90人を超す方々が専任講師の指導を受けながらエッセーの書き方を学んでいます。教室は月1回のペースで開かれ、毎回受講生が作品を持ち寄り、作品の講評を講師から受けます。受講は4月から翌年の3月まで。




「傾聴なんて無理!」 村上 久美(57)=幕別町*帯広会場 2017/06/21

 傾聴という言葉を覚えた。認知症介護の本で知った。自分の価値観を脇に置いて、話し手の目で世界を見ようとする聞き方。人事労務辞典によると、相手をよく理解するために、カウンセリングでも使われる技法らしい。
 だが、「それができたら苦労しないよ」と思う。狭量なせいか、毎度同じ自慢話を聞かされるのは、退屈で困る。
 母と料理の最中に、父から「あのなー」とよく声がかかる。私はまたかと、内心ガクッとうなだれてしまう。父はこちらが忙しいときに限って関心を引きたくなるようだ。「なあにパパ」と母が駆け寄り、いつもの武勇伝が始まる。
 航海士だった父が座礁しかけた船の進路を変更して、無事に沖に戻ることができたというエピソード。その場にいた乗組員たちの緊張感や、立派に任務を果たした父の安堵(あんど)感と誇りが伝わってくる。いわば人生のハイライトとも言えるシーンだ。「よくやってくれた!」という船長の言葉まで、まるで映画の場面を再現するかのように話す。
 いい話には違いないが、長い! 「それ、暗記するほど聞いたんですけど」と、思わずつっこみを入れたくなる。ところが母は、身を乗り出して聞くのだから感心する。時には感嘆の声をあげ、時には深く頷(うなず)いて。
 傾聴のできる人が、ここにいた。
 父は話し終えると、ゆったりとソファーにもたれ、ほほえむのだった。


 
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