北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch




 当エッセー教室は、北海道新聞帯広支社が主催。現在帯広はじめ鹿追、大樹、芽室、上士幌の計5会場で開いており、合わせて90人を超す方々が専任講師の指導を受けながらエッセーの書き方を学んでいます。教室は月1回のペースで開かれ、毎回受講生が作品を持ち寄り、作品の講評を講師から受けます。受講は4月から翌年の3月まで。




「お酒を飲まないわけ」 田中 順子(88)=帯広市*帯広会場 2017/04/26

 戦後、世の中が少し落ち着いて来た頃、姉と二人でよく映画を観に行った。夕食の後片付け、父や弟たちのお布団も敷いてから、いそいそと出かけた。イングリッド・バーグマンがデビューした頃だった。
 あの夜は珍しく休み時間にトイレに行った。出てきたら、変な男につかまった。何日の何時にどこそこに来てくれと言った。いかないと言ったら離してくれない。仕方が無いから行くと言ったら、離してくれた。
 走って逃げたら姉がいた。あんまり遅いから見に来たのだという。行くと言ったら離してくれたとわけを話した。「バカだね、アンタは」と叱(しか)られた。「行かなきゃいいんだもん」「それもそうだネ」。姉が言った。
 新しい映画が来る度に、観に行ったが。あの男に会うことはなかった。
 ところが、田中と付き合い始めて食堂に入った途端、いた。あの男がいた。
 ツカツカと田中のところに男が来た。少しの間、私を貸してくれと言った。連れ出された私は小料理屋のようなところでお酒を飲まされた。生まれて初めてお酒を飲んだ。私は、ゲラゲラ笑い出した。慌てた男は私を外に連れ出したが、いつまでもゲラゲラが止まらない。男は私を家まで送って来た。家の前に田中が待っていた。
 以来、お酒を飲んだことがない。人生の楽しみのひとつを知らないまま、この年になった。


 
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