北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch




 当エッセー教室は、北海道新聞帯広支社が主催。現在帯広はじめ鹿追、大樹、芽室、上士幌の計5会場で開いており、合わせて90人を超す方々が専任講師の指導を受けながらエッセーの書き方を学んでいます。教室は月1回のペースで開かれ、毎回受講生が作品を持ち寄り、作品の講評を講師から受けます。受講は4月から翌年の3月まで。




「たかが、されど弁当」 松田 陽子(68)=幕別町*帯広教室 2019/05/22

 四角い弁当箱のふたをあけると、おかずは魚肉ソーセージ数切れと小魚の佃(つくだ)煮だけ。社会復帰をめざし、入院しながらの作業訓練を始めたばかりのY君の弁当だった。
 ここに至るまでの道筋をつける大変さが、Y君にもわれわれ医療スタッフ側にもあった。Y君の受け入れ先の工場の、慣れない肉体労働への配慮はありがたかった。一つ一つ丁寧に指導してくれている。
 それにしてもこの弁当。毎日これでは、力もつかないし楽しみもないだろう。食費もいただいているのだ。いや、それ以前に弁当を持たせるということは、Y君は家族同然なのだ。
 上司に相談すると「いや、なんとかする」と言うばかりでさっぱり変化なし。朝食準備はただでさえ手が足りないのに、一人分とはいえ弁当にまで手が回らない。これが厨房(ちゅうぼう)の返答だったらしい。
 うーん、頭の中が瞬間湯沸かし器になる。
 だが、そんなことには関わりなく、Y君は順調に作業に対応できているようだった。「昼ご飯になると、工場の皆が僕の弁当箱のふたに、これ食べてとおかずをくれるんです。残すのは失礼だから、いつも、ぜーんぶ食べちゃってます」
 長い廊下を、玄関まで一緒に歩いた時の会話だった。
 そうか、そうだったのか。出かける時も帰ってくる時も彼はいつも良い表情をしていた。周囲の支えに感謝。人前で涙なんぞみせたことのない私の涙腺がゆるんでしまった。


 
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