北海道新聞帯広支社
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「深夜の楽しみ」 金森 克仁(62)=帯広市*芽室会場 2018/04/25

 真冬の夜、車に乗り込もうとした時、ふと何気(なにげ)なく夜空を見上げた。空気が寒さの中に冴(さ)え渡っていて、オリオン座を始めとした星がきれいに輝いていた。
 星の輝きに導かれるように、懐かしいあの時に誘われるように、車内でAMラジオのボタンを選択した。いつもはテレビ画面が流れているのに。
 高校受験の頃、二月といえば追い込みの時期だ。仮眠を取り、十時くらいから机に向かった。二時間くらい経(た)ち、丁度(ちょうど)真夜中になると休憩時間になる。夜食代わりのパンを囓(かじ)り、牛乳を飲みながら、今度はラジオと向き合う。お待ちかねの深夜放送の始まり。
 道内の放送局には若者向けの深夜番組があり、各パーソナリティーが青春、進路、時には恋愛について、リクエスト曲の葉書(はがき)をもとに軽妙に語りかける。一休みのつもりが一時間くらい参考書を広げ、聞き入っていただろうか。
 眠気も醒(さ)め、目が輝いてくると、次は東京の放送局の人気番組を覗(のぞ)いてみる。弱い電波を拾おうと、チューニングスイッチに細心の注意を払い回していく。その時、ロシア語、中国語……外国語放送が雑音と共に流れる。冬の澄んだ寒空には、自由に行き交うことの出来る空間が広がっている気がした。
 その晩、久し振(ぶ)りに蒲団(ふとん)の中でラジオに手を伸ばした。私たちの年代向けの番組らしく、静かな語りが耳に心地よい。遠い記憶の断片を思い出しながら何時(いつ)しか眠りについていた。


 

 

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