北海道新聞帯広支社
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「助手席のワナ」 井戸 真由美(56)=帯広市*帯広会場  2018/02/21

 「あの道路標識の意味、知ってる?」
 札幌へ向かう国道を運転しながら、夫がきいた。知らないだろうという口ぶりだ。
 「追い越しのための右側はみ出し通行禁止でしょ?」と当たり前のように言った私。
 「え? なんで知ってるの?」
 「なんでって?」と絶句してしまった。<っていうか、運転する人なら、知っててフツウでしょ?>自分の心の声が聞こえる。
 「じゃあ、これは?」
 「規制の終わり、でしょ?」とフツウに私。<マジで知らないの? 何年運転してるわけ? 助手席にいるの怖いんですけど>
 「ダメだなぁ。あまり標識を気にしてなかった」と夫は自虐的に言った。普通自動車免許を取得して37年。なのに何と情けない。そして頼りないドライバーだろう。ハンドルを握っている夫の運転が、今までよりさらに恐怖心を増幅させた。
 だが、夫は定年後の仕事の選択肢を増やしたいとタクシーも運転できる2種免許を取得した。道路標識もかなり覚えたようだ。ただ今度は、運転が慎重になり過ぎた。<今、行けたでしょ>と助手席でイラッとする回数が増えたようにも思う。たぶん、夫は運転に向いていない。だから、つい言ってしまう。「私が運転するよ」。
 もしかしたら、慎重すぎるのは、私に運転させるための夫のワナなのか……、それとも確信犯か? 見極めるにはもう少し時間が必要だ。夫婦のだまし合いは、今日も続く。


 

 

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