北海道新聞帯広支社
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「赤い手袋」 吉野 久美子(52)=大樹町*大樹会場 2018/01/17

 「あれ、手袋がない」
 気忙しい年の暮れというのに、出かけようと上着のポケットに手を入れたら、手袋が片方しかない。ハンドバッグの中にも車のシートの下にもない。どこかで落としたのだろうと、前日の足取りを思い出す。外は雪がどんどん強くなってくる。ボヤボヤしていると、雪に埋もれて見えなくなってしまう。泣き出したくなる気持ちで街に出た。
 スーパーに行って、電器店に行って母に頼まれた買い物をし、その足で実家に寄って……。祈るような気持ちで前日歩いた辺りをくまなく捜し、落とし物の手袋があったら知らせて欲(ほ)しいと頼んで回った。
 もう、四十年近く愛用しているこの赤い革手袋は、父からのクリスマスプレゼントだった。すっかりくたびれてしまったが、縫い糸がほつれることもなく、毎年手入れをしながら使っている。私には大切な宝物だ。
 がっかりしながら立ち寄ったコンビニで、「もしかして、落とし物の手袋届いてませんか」と顔馴染(なじ)みの店員に尋ねた。
 「革のよね!吉野さんのだったのね」
 そう言うと、彼女は事務室に捜しに行った。
 前夜、年賀はがきを買いに寄った時に落としたのだろう。
 手袋は無事、手元に戻った。手袋をなくしただけで、懐かしい子供時代の記憶まで消えてしまいそうで不安だった。あと数年で父の歳(とし)を超すというのに。
 赤い革手袋は、あれからタンスにしまわれたままになっている。


 

 

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