北海道新聞帯広支社
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「けんかも会話」 田中 順子(89)=帯広市*帯広会場 2017/12/27

 この家に暮らして四十二、三年になる。新興住宅地に近かったせいか、かつては毎日のようにセールスマンが来た。
 ある日、夫と同じぐらいの年格好の男が来て、家をただでやると言った。私がびっくりしていると「父さんいるかい?」と聞いてきた。夫はセールスの人と話すのは苦手だ。でも、何だか気味が悪かったので、無理に出てもらった。
 少しすると玄関で「テメー、このヤロー」と言う夫の声が聞こえた。相手も負けずに言い返している。夫の人相はヤクザ風だが、けんかは弱い。慌てて言い合いを止めに入った。それでもまだ「このヤロー」と言っていた夫だったが、仲裁に何も言わなかったところを見ると、内心ホッとしていたのかもしれない。ただの家の話は、けんかで終わった。
 私も、セールスの人と言い合いになったことがある。
 電話が鳴ったので出ると、「○○建設ですが、家を建てませんか」と言われた。一軒あるからいらないと言うと、「もう一軒どうですか」と言う。なぜ二軒もいるのかと少し気色ばむと「そんなに怒ったら顔にシワができる」ときた。思わず「あんたの会社は、家を売るのではなくけんかを売るのかい!」と言い返した。それからは、顔も知らない相手とメチャクチャの言い合いになった。
 一人の今、一度も人と会話をしない日がある。


 

 

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