北海道新聞帯広支社
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「牛舎の中にいて下さい」 八巻 昌子(57)=大樹町*大樹会場 2017/10/18

 「こんど行くんだよ。だから、あんまり顔出さないで」って、牛にお願いした。家業は畜産業。牛の飼育をしながら、牛肉製品の直売店とイートインスペースを設け、食事も提供している。
 土曜日の昼、2人のお客さんがハンバーグランチを食べに来てくれた。その食事中に、「八巻さん、牛に見られているわぁ」と、笑いながら教えてくれた。店から1番近い牛舎には大きな牛たちがいる。人が来るたびに中からパドック(運動場)に出て来てしまう。
 店を建てる時、南側は小さな窓から日高山脈が見られ、東側は大きな窓にして牛を見ながら仕事ができたら最高だと考えた。子牛の頃から約2年間も育てていると人懐っこくなってしまい、逆に牛がお客さんをジッと見てしまう。私は理由を言ってお客さんに謝る。でも、お客さんはその牛たちが可愛いと言ってくれるので、その場が和む。私の気持ちは複雑になる……。
 先月も肉の加工を工場にやってもらったけれど、ハンバーグランチを作るには15人分しか残っていない。肉の在庫が少ないということは、牛の出荷が間もないということだ。いつも可哀相になる。平気な気持ちではいられない。「ありがとう」と感謝しながら、経済牛として全うしてもらう。
 モクシ(牛をつなぐ縄)をつけて車に乗せる日が近づいている。私はお客さんが帰った後、「頼むから牛舎の中にいて下さい」とまた牛にお願いする。


 

 

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