北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch

「賞味期限」 武内 悠紀夫(77)=幕別町*大樹会場 2017/07/26

 初夏を思わせる眩(まばゆ)い日差しの日曜日の午後、居間で新聞の切り抜きをしていた妻が言った。
 「お父さん、夫婦の賞味期限は10年だって」
 「ふうん、じゃあ、俺達(たち)は夕方5時からの値引き処分てとこかあ」
 「違うよ、お父さん。廃棄処分だよ」
 「そうか、捨てられるのか。あと1年で50年になるもんなあ」
 私が28歳、妻が22歳で、同じ職場だった。営業担当の私が、夜遅く得意先から帰社した。誰も居ない筈(はず)の3階に灯(あか)りが点(つ)いていた。
 「遅くまで頑張ってるね」と、独り机に向かっていた妻に声を掛け、自分の席についた。
 机の上がきれいに片付いている。
 「あれ! 誰がやってくれたのかなあ」。独り言を呟(つぶや)くと、「すごく山積みになってたから、ちょっと片付けておきました」
 「ありがとう、助かったよ」
 遅い食事を一緒に…と外に出た。
 結婚への序曲となった。
 妻の実家や親類の猛反対を押し切って、1年後に結婚、そして長女誕生。電報を打った。
 「長女誕生、母子共に健康。皆様(みなさま)に感謝」
 その年の暮れ、妻の実家から電報。
 「餅つきに男手必要、応援頼みたし」
 これが私達(わたしたち)への“結婚許諾”の通知だった。
 以来49年経(た)った今、私達は北国の新緑の中で、ゆったりした時の流れを楽しんでいる。
 二人には賞味期限の日付はないが、その絆は手造(てづく)りチーズのように、歳月と共に味わい深くなっていくようにも思われる。


 

 

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