北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch

「秋日和」 原田 律子(84)=士幌町*上士幌会場 2017/05/24

 嫁に来てから六十年近くも住んで居るのに、濃紫の綺麗(きれい)な花が咲く野草地があるとは知らずにいた。人々の通らぬ農道の裏道でもあるが、傍の傾斜地はやがて我(わ)が家(や)の植林地に行き当たるはず。親たちの代の分家の持ち山なので、その辺りには私の知らない方たちのお墓が二基あるはずだった。
 他の草丈より高く揺れている紫色は、点点と麓まで続いている。「わっ、凄(すご)い! 竜胆(りんどう)だ、珍しいー」。我(われ)を忘れて車を止め窓から見とれていると、突如、吹き上げて来た風に雑草のすべてが転ぶ。風が行き過ぎると何事もなかったように平穏が戻り、秋の日和が眩(まぶ)しい。
 十数年前の道路工事の際に他所(よそ)から運ばれた土砂の中に、諸々の種子や根株の生き残りが最近になってようやく野の花畑になったらしい。樹木の見当たらないのがそう思わせる。
 一本のみで良い、折り採って帰りたい。車が動きださぬようにしっかりブレーキをかけてから下り、排水溝を飛び越えた。身近にある一本を折り採る。人の行き交いのないのがいい。
 腰丈程もある草たちを踏みつけて奥へと上り、ためらうことなく二本目を折った。
 「この一本は彼(か)の人のもの」。内心がわくわくしてくる。二本を合わせて瓶に活(い)け、短い間ではあろうが、寄り添える暮らしにしてあげたい。風に吹かれるままに意の届けられぬ一生なんて無意味。花に出会った感動は何処(どこ)へやら。揚揚と帰途に就いた。


 

 

北海道新聞社ページへ
戻る