北海道新聞帯広支社
Hokkaido shimbun press Obihiro branch

「五右衛門風呂と天徳湯」 菊地 由美子(70)=芽室町*芽室会場 2017/03/29

 父の転勤で帯広から士幌村に移った。
 小学生の私と弟、高校入学したばかりの兄は、帯広へ列車通学だった。
 私たち家族を驚かしたのは、水道もポンプもない大きな水瓶(びん)があるばかりの台所である。
 社宅から道を隔てた場所に共同の水汲(く)み場があった。バケツ二つに天秤(てんびん)棒をかつぎ、水を運ぶのは兄の仕事になった。
 一番困ったのは、社宅にお風呂がなく、村にあった銭湯もなくなったことである。
 帯広の社宅にも内風呂はなく、近所の「天徳湯」が家族や御近所の人たちの唯一の銭湯であり、皆の社交場でもあった。
 営業所の方のお宅に、もらい風呂に行く生活がはじまった。古びた物置のような建物に、どっかりと鎮座している六角形のコンクリートの物体。初めて見る「五右衛門風呂」だった。
 上に浮いている板の上に、上手に片足ずつのせて、静かに沈める。身体や手が、ふちにふれると熱い!
 とても恐ろしい思いだった。お風呂を楽しむどころか、早く湯船から出たいという思い。また、あの賑(にぎ)やかな話し声や子供のはしゃぎ声、女湯から男湯になげかけ合う言葉の数々―。「天徳湯」の有り難さをしみじみ知った。
 そんな日々を過ごした後、事務所横にお風呂が完成した。やっとのんびり入浴が出来、水道もついて、兄の過酷な仕事も解消した。
 お風呂のない方が、我が家にもらい湯に来た。
 五十数年前の切なくも懐かしい思い出である。


 

 

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